はじめに


医療事故の中の一つとして看護における事故“看護事故”が挙げられます。
現代における看護は、器械の導入、検査の増大などでシステムの複雑化、多様化し看護師に求められる要求も多くなっています。また、それらによって事故になる原因も増えてきている時代です。

しかし、看護は医師に比べてチ-ムで多人数で行っており、情報を共有化しないと仕事が出来ないという特質が有ります。その特質を利用すると情報を出しやすく、また、サポ-トもしやすく事故防止対策が行いやすいと言えると思います。
また、アメリカにおいてはリスクマネジメントなど損失に関する管理面は進んでいるようですが、事故報告をするという意識などが雇用問題などから乏しいとも聞きます。
これらより日本においては看護の事故防止対策がしやすいのではないかと考えます。
もちろんリスクマネジメントなどで看護だけでなく、病院全体として事故に取り組まないとシステムなどの歪みがきたし、効果的ではありません。
看護事故を少しでも減らしていきたいと願っています。

良い看護の為に安全は最低限の義務だと思います。
事故防止をしていくことで看護の質、および周辺の事が向上していくと考えますし、
看護の質の向上こそが本来の目的ではないかと考えています。
訴訟対策のために事故防止をしていくのは少し本道からはずれていきそうな気がします。


事故が生じてから対策を行う


質の向上より事故の減少

また、最近は、コストの問題が大きくウェイトを占めてきていますが、コストがかかるから、コストに見合わないから事故防止に力を入れない。
ではなく、是が非でも事故防止はしなければいけないと思います。
それが
看護の良心だと思います。

この病院は、消化器がいいから循環器がいいからというのではなく
看護が良いからこの病院を選びました。
と言われるようになりたいと思っています。


言葉について


 国語辞書などより
過誤 あやまち。やり損じ。あやまり。
事故 ふだんとは違った、悪い出来事。
事件  出来事。人々の話題になるようなものをさすことが多い。
ミス miss し損なう、見逃す、取り逃す、失敗する
インシデント incident 出来事、事件、挿話
アクシデント accident 偶然の出来事、不慮の災難、事故
リスク・マネジメント risk management 危機管理、発生した危機の影響を最小限に抑えること。

 詳しい定義は次より



医療事故と医療過誤の違い


医療過誤と医療事故の定義は、異なるものが多いようです。
例えば
「患者誤認事故防止方策に関する検討会報告書」の(1) 医療事故防止に関する基本的な用語の整理によると
「医療事故」は、医療にかかわる場所で、医療の全過程において発生する人身事故一切を包含する言葉として使われている。医療事故には、患者ばかりでなく医療従事者が被害者である場合も含み、また、廊下で転倒した場合のように医療行為とは直接関係しないものも含んでいる。医療事故のすべてに医療提供者の過失があるというわけではなく、「過失のない医療事故」と「過失のある医療事故」(医療過誤)を分けて考える必要がある。「医療過誤」とは、医療の過程において医療従事者が当然払うべき業務上の注意義務を怠り、これによって患者に傷害を及ぼした場合をいう。過失の有無については、事例によっては、必ずしも明確でない場合がある。

「医療事故」山内桂子 山内隆久 2000 朝日新聞社 によると
医療事故は (A) 不可抗力によるもの
      (B) 過失によるもの
医療過誤は (B) 過失によるもの
      (C) 故意によるもの
というように分類しています。(詳しくは著書をご覧下さい)

さらに
医療事故相談センタ-  加藤良夫
生命倫理学講義 監修 斉藤隆雄 日本評論社
2.医療過誤と患者の権利 より要約

医療過誤  医療関係者の過失・落ち度というものがあって、それによって患者さんに障害、死亡などの被害をおよぼすこと。一般に人間関係的なトラブルは、含まれていない。具体的な医療行為があり、それによって患者さんが被害を受けた場合に限定して医療過誤という。
医療事故 過失がない場合は、医療過誤ではなく医療事故となる。不可抗力の場合は医療事故
医療紛争 事故も起きていない、あるいは医療関係者にミスがないのに、看護師の態度が悪いとか、医師の言葉が気に食わないと言うことで紛争になることがある。

また、過誤と事故を同じとしているものもあり混乱します。

ここでは、医療事故を「患者誤認事故防止方策に関する検討会報告書」にあるように全てを包括するものとします。つまり「過失のない医療事故」と「過失のある医療事故」を両方含むものとします。
また、過誤の意味は、誤りという意味で、法的な意味合いが強いようです。また過誤にあたる英語はないようですので、ここでは過誤という言葉は使わず事故で統一しました。


事故と事件の違い


事故はミスなどにより、患者などに悪い出来事があった場合
そしてそのことがマスコミなどで取り上げられ、人々の話題となれば事件とここでは定義しておきます。
ここでは事故を扱っています。



インシデントとアクシデントの違い


事故報告書をインシデントレポ-トとしている施設もあります。
また、その産業によってあらわし方が違うと言う説もありますが
ここでは、事故をアクシデントとし、インシデントは事故に至らなかったが、なりそうになった事柄とします。ヒアリハットはインシデントになります。

「リスクマネ-ジメントマニュアル作成指針」によると
ヒアリ・ハット事例とは
1.患者には実施されなかったが、仮に実施されたとすれば、何らかの被害が予測される場合、
2.患者には実施されたが、結果的に被害がなく、またその後の観察も不要であった場合
と定義されています。

しかし、有害な結果にならなかったのでインシデントとしてしまうと分析が不十分になる可能性があります。
例えば、ビタミン剤を間違えたが、患者には害はなかった。これをインシデントとしてしまうと
抗ガン剤を間違えた。ということと間違えたことは同じでも患者への影響の有無でインシデントとアクシデントに分類すると分析ができないところが出てくるのではないかと思います。
ということで患者に被害が無くても、間違ったことを実施した場合をここでは事故としています。 
 


看護師の仕事


1.看護本来の仕事
2.医師の介助の部分

といわゆる保助看法で定義されています。

保健婦助産婦看護婦法第5条 (看護婦の定義)
「この法律において「看護婦」とは、厚生大臣の免許を受けて、傷病者若しくはじょく婦に対する療養上の世話または診察の補助をなす事を業とする女子をいう」
保健婦助産婦看護婦法第37条 (特定業務の禁止)
「保健婦、助産婦、看護婦または准看護婦は、主治の医師または歯科医師の指示があった場合の外、診療機械を使用し、医薬品を授与し、又は医薬品について指示をなしそのた医師若しくは歯科医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずる虜のある行為をしてはならない。但し、臨時応急の手当てをなし、又は助産婦がへそのおを切り、かん腸を施し、その他助産婦の業務に当然付随する行為をなすことは差支ない」

※現在は、保健師助産師看護師法になっています。


事故の簡単な分類


病院で生ずる事故にはいろいろな種類があります。

1. 看護などの医療事故
2. 感染事故
3. 患者の秘密のリ-ク
4. 設備、環境、医療器機などに関する事故
5. 災害時、非難経路などによる事故
6. その他(盗難、面会者など)


看護事故とは?


ここでは看護師が原因となり、患者に何らかの影響のあったものと定義しておきます。
原因となることは、看護師の仕事のところで述べましたように
1.看護本来の仕事
2.医師の介助の部分

看護事故を簡単に次のように分けました。

看護師が原因となるもの
患者に影響 

いわゆる看護事故
看護師自身に影響  
針刺し事故など


しかし、「患者に影響」において看護師だけが原因となる場合だけでは無く、
事故に対して患者がなんらかの要因となっている場合もあります。例えば無断外出(泊)などは、患者の要因が大きいと考えます。
ここでは看護師が原因となり、患者に影響のあった狭義の看護事故を取り扱っています。
また、分析のために看護のインシデントも扱っています。

看護師自身に影響のある針刺し事故は、機会があれば取り上げてみたいと思います。
感染事故についても看護師が感染源になるなど看護師が原因となることがありますが、ここではふれません。
他にも患者に問題があり、看護師に影響があることもあります。例えば患者の暴力、性的なことなどがありますがここではあまりふれません。


なぜ事故防止をするのか?


上においてアクシデントの意味は、偶然の出来事、不慮の災難、事故とありました。
しかし、事故は偶然ではなく、デ-タ-(インシデント、アクシデント)を集めて分析することで、ある法則に乗っ取って生じます。つまり偶発ではなく、防ぐことが出来ると言うことです。
そのためデ-タ-を収集し分析、対策をすることによって事故を減少させることができるため事故防止をするという事です。


安全についての考え方


「日本人とユダヤ人」 イザヤ・ベンダサン より
格式あるホテルにユダヤ人家族が暮らしている。しかし、質素な暮らしであった。
部屋代とかを考えるともっと豊かな生活ができるのではと聞くと
「ここは安全ですから」という返事であった。
更に、
「このホテルは、(中略) 警備という点では絶えず教育され、訓練され、行きとどいていますから、ここより安全なところはないわけです。安全にはコストがかかります。しかし、この世のあらゆることは、生命の安全があってはじめて成り立つわけで、もし生命を失えば、その人にとっては、この世の全てのことは全く無意味です。もちろん、あなたのおっしゃる郊外の豪邸も豪奢な生活も全て無意味になってしまいます。ですから、まず、自分の生命の安全を第一に考えて、この安全のためには、たとえ他の支出を削れるだけ削ったとしても、当然のことではないでしょうか。」

この本の出版はいささか古く1970年なのですが、現在においても同じような感じなのかも知れません。
日本は、他の国のように外敵にさらされたことがないこともあり、外交下手といわれています。
また、危機管理という事が言われて久しいですが、動燃など原子力関係、雪印、三菱自動車などの大企業において隠蔽という体質は変わっていないようです。日本人は安全への意識が乏しいのではないかと思います。
アメリカのリスク・マネジメントは経済的損失に関する意識が進んでいるという感じがしますが、本質的なところはどうでしょうか?
このへんで安全について考え直してみる必要があるのではないでしょうか?
安全、安心な看護を目指して



このペ-ジの紹介


看護サイドに立って書いています。
対象としては、主に病院で働いている看護師としています。
看護師の活躍の場はもちろん他にもありますし、訪問看護、看護学生などの事故、その他関係することがありますが、ここでは病院での看護事故としています。
リスクという概念の範囲が広いのでここでは看護事故のみとし、リスクマネジメントとして全体を述べたものではありません。

告発ではなく、非難するものでもないこと 
少しでも看護事故が減少すればという願いを込めて書いています。

※なお、患者など敬称略しています。


自己紹介


どういう視点で書いているのかという参考の為に書いておきます。

大学卒業後(工学部)、医療機器のメンテナンスの会社で働いていました。
その後、看護学校を卒業し、民間の総合病院整形外科病棟で5年、
国立病院機構の精神科病棟を経て、現在は混合病棟に勤務しています。
看護師歴20年になります。
もともと車が好きで、事故、安全ということに興味を持ち、
1990年より病院における事故事例などを集めていました。


8時と8時
友達と待ち合わせをしました。
じゃ明日8時な!
ところがこない。全然こない、
まったくこない、TELしてみると晩の8時だと思っていたとのこと
朝の8時に待ち合わせもおかしいよな。
え~こんな時間にこんな事するの?? 普通しないよねェ~ある?ない?
本当にこんなことするの? っていう時。

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