ここでのサポ-トは、人的サポ-トという意味で書いています。
事故直後の業務のサポ-トについては事故後の対応のところで少し述べましたが、ここでは精神的なサポ-トをメインとしています。
従来までは、事故防止、防止のみでなかなか事故をおこした人のサポ-トについてはあまり論じられていませんでした。
しかし、一面においては事故を起こした人は、ある意味では組織、システムの不都合による被害者であることも考えられます。
事故のサポ-トを系統立てて行うことは、必要なことであると思います。
戦争の話ですが、第二次世界大戦時 日本は、戦闘機が撃墜されるともうそれで終わりで帰れなかったのですが、アメリカでは、撃墜されたときにその乗員を救助をするサポ-ト隊があったそうです。ゼロ戦においても乗員を守るという思想に乏しくアメリカ軍がゼロ戦を捕獲して分析したとき人間を大切にしない設計に驚いたそうです。
前置きが長くなりましたが、
大切な人材です。時間をかけて育ててきた人材です。事故を起こした人の精神的負担が少しでも軽減できる事が必要で、ものではなく人間をみている病院ですのでやはり人間を大切にして欲しいと思います。病院の理念も問われるところではないかと思います。
少なくともサポ-トがあることが明文化されていればそれだけでも安心感はえられるのではないかと思います。
事故後のサポ-トだけでなく、
事故をしていなくても、事故に対する不安などより離職する人もいるようです。
事故後の精神的サポ-トがメインとなりますが、事故後以外のサポ-トも必要だと感じます。
事故が生じて後だけでなく、事故が生じる前にもサポ-トが必要だと考えます。
事故を恐れながら看護をするのではなく、事故に対する不安を軽減し、看護が出来るということは大切だと思います。
次のようなサポ-トが必要ではないかと思います。
1.事故が生じるとどうなるのかという不安のサポ-ト
2.周囲、環境の不安へのサポ-ト
3.倫理的問題
4.その他
1.事故が生じるとどうなるのかという不安のサポ-ト
事故を起こしてしまうとたくさんの負担が生じます。
組織にも負担がきますが、個人にもたくさんの負担が生じ重荷になると思います。
実際に事故を恐れながら仕事をしている看護師は多いようです。事故をおこしていなくても、そのような不安から離職する可能性もあると思います。
3.事故後のサポ-トの重荷にありますように、どのようなことが不安になるかというと例えば、
病院、協会はどのような対応をしてくれるのかわからない事故後の不安
裁判、賠償金額、精神的負担など様々な大きな負担などがあげられます。
インシデントレポ-トの扱いなど、どの様に取り扱われるのかという事故防止に関するもの、事故前の扱い方など
知識不足などによる不安は大きいのではないかと思います。
それぞれに対して
保険があること、相談できる窓口、事故防止および事故後のトレ-ニングなど、病院の事故対策が行われていることなど
組織としての態度を明確にする必要がありますし、
インシデントレポ-トなどの処理方法、査定対象にしない。プライバシ-の問題などをはっきり明文化することによって情報不足による不安は減少するのではないかと考えます。
2.周囲、環境への不安のサポ-ト
周りのレベルが低い
自分は事故をおこさない。しかし、周辺環境例えば質の低下などにより自分が事故に巻き込まれるのではないかという恐れもあると思います。また、看護介入を行っているが、個人によってレベルが異なり病棟単位などでの一定の質を保てず事故に巻き込まれるのではないかという不安などがあると思います。
自分のレベルが低い
自分の看護のレベルが低いことなどより事故をおこしてしまうのではないかという不安、また勤務異動などでなれないため事故をしてしまわないだろうかという不安があると思います。
システムの欠陥
また、システムの不都合を感じながら看護をする場合、例えば同じことをするのに院内に複数のプロトコ-ルが存在するような場合、何か生じた時に巻き込まれるおそれがあると言うことも考えられると思います。
事故防止の範囲になりますが、事故防止、勉強会トレ-ニングなどをして質的向上を勤めることによって、そのような負担は減るものと思われます。ここでも何が負担になっているのかを見抜きサポ-トをしていくことが必要で、知識や手順だけでなく精神的なサポ-トも必要と思います。
これらの多くは、質的向上を計ることで解決する場合が多いのではないかと思います。
3.倫理的問題
倫理的な問題がある場合のサポ-ト
これは、事故前後に関わらず問題が生じることがあります。
具体例としては、東京女子医大の医師による看護記録の改ざんの指示があったような場合の時、倫理的判断を早急に求められるときがあります。
[…記録の一部を改ざん。まず、(医師が)看護師に対し「言う通りにすればいいんだよ」と怒鳴って瞳孔の数値を書き換えさせた。]
自分一人で判断しなければいけないと、このような事とか、または情などによって倫理的判断を誤ることがあります。
事例は、事故が生じてからの改ざんのことになっていますが、事故が生じる前にも倫理的判断を迫られることは多く看護行為は倫理的な行為を含みその場合に応じて判断しているので事故前の時も問題となることがある。
そのような対応が出来ない場合が生じると、結局は看護師自身の権利を守ることが出来ず犯罪者になってしまい。精神的にも深い傷となる可能性も考えられます。
倫理的な問題を含めてサポ-ト出来ればよいと思いますし、女子医大の改ざん指示のように、早急に判断が求められる場合もあるので倫理的な対応窓口が必要ではないかと思います。
そのことに関してリスクマネジャ-がするのか、倫理委員会が行うかは、決めておかなければいけませんが、施設側がそのような窓口がある事を看護者に周知して、誰でも直ぐに相談できることが必要だと思います。
4.その他
インシデントレポ−トには、「自分の不注意で患者様に迷惑をかけてしまった。申し訳ない。二度とこのようなことが起こらないように気を引き締めていきたい」と書かれてあった。…(中略)…
「二度と……」という表現は非常に危険で、再び起こった場合の責任が持てなくなる。このような表現をする背景には、事故に対する何らかの不安が隠されていると考える。…(中略)…
本人からのイベントレビュ-(時間の経過を軸にして、その時の判断、思考、感情などをインタビュ-する方法)を行い、さらに事故に対する不安な思いを言語化できるようにする。…(以下略)
事故後の精神面のサポ-トを考える リスクマネジャ-の持つリエゾン機能 釜 英介
特集 リスクマネジメントの新しい展開 事故後のサポ-トの実際
INR インタ-ナショナル ナ-シング レビュ- 107号 Vol.25 No.4 日本看護協会出版会 p.55~56
より要約抜粋
部分だけの要約であり、内容はリエゾンナ-スの介入についてですので、ぜひ全文読まれることをおすすめします。
この文献にもありますようにインシデントレポ-トから事故防止のためのデ-タ-として活用するだけでなく、インシデントレポ-トからでも精神的負担を読みとり面談などをすることが必要だと思います。
またそのような積み重ねが、看護者全体への精神的負担の軽減につながっていくと思います。
事故直後は、パニックになると、何も考えられない、何も判断できない、更には通常では考えられない行動に出たりすることが考えられ、それによってさらに二次的な事故が生じる可能性があります。
事故の大きさ、看護者の経験、パニック耐性などによりパニックになる度合いは異なります。経験があり、パニック耐性の強い人ほど、事故時にパニックにならず適切に対応できるときが多いと思います。しかし、それでもパニックは生じます。
パニックになった時、早くサポ-トの人を呼びサポ-トしてもらうことが大切です。それは、患者が適切な対応を受ける必要があると言うことと、看護者においてもさらに傷口を広げることがないようにするためです。自分で何とかしなければと思ってしまうと判断能力のない頭ではどんどん深みにはまってしまいます。いつでも人を呼べる体制とか雰囲気も大切だと思います。
パニック時にはなぜこのような事故になったのかさえも判断できないこともあります。
パニック時の精神的サポ-トも必須で、単なる同情だけで終わらないサポ-トが必要です。事故発生時には、その看護師をその事故からはずす事が必要であると思います。精神的ショックが大きいときも考えられますので、環境の整った場所で一人にしないことが大切だと思います。
しかし、現場から全くはずしてしまうと事故の詳しい状況がわかず、事故対応に支障を来す場合もあるため、サポ-トの人が精神的負担も考慮しながら事故の経過などは、聴取しなければいけないと思います。
サポ-トの人は、事故環境の保存(例えば関係した物を捨てないなど)もふまえ、状況の把握などを複数の看護師で確認する事が望ましいと思われる。

続々・実際の設計 畑村洋太郎 日刊工業新聞社 2000 p.38より
事故直後からの精神的な変化
上図は、失敗したときに当事者の頭に浮かぶ事柄ですが、パニックの後にこれらが浮かんでくると思います。
この引用した図は、工学系のものですが、看護の場合もほとんど同じような事柄が浮かぶのではないかと思いますが、看護の場合は、生命直接影響を及ぼす場合も少なくないので自責の念、罪悪感など工学系に比べて深刻な精神的負担が出現する可能性もあると思います。
またこれらは、失敗の程度にもよりますが、大きな事故の場合ですと個人によって異なるところはありますが、それだけダメ-ジは大きいと思います。
また、原因の推定が出来るまでになると少し落ち着いてきているのではないかと思います。
事故を起こしてからの重荷として次のようなものがあげられると考えます。
1.事故調査され非難されるのではないかという不安
2.まわりのスタッフの対応と見る目
3.被害者のダメ-ジの程度
4.被害者および家族との関係
5.訴訟、刑事罰への恐れ
6.仕事ができなくなる事への不安
7.病院の処分などの対応
8.調査、訴訟などによる金銭面、時間的な負担
9.その他、精神的な負担 |
自責の念、ショック、同じ業務を行うときの恐怖または消極的、やる気を失う、拒否反応、過慎重、他者の反応が気になる。
患者の家族に対して、世間の目、訴訟される不安、仕事を続ける自信喪失、犯罪者の烙印、罰金、倫理的な負い目など。
その結果、PTSDや不眠症になったりすることもあり、事故を起こしてしまっていたたまれなくなって辞めてしまったという話を聞きます
事故をおこしてしまった場合、もちろん加害者であるが被害者でもあると思います。組織的にサポ-トをしないと人材をつぶしかねず、医療機関のモラルとしてそのような人を救っていくサポ-ト体制を作っていくべきであると考えます。
相談できる窓口(リスクマネ、リエゾンナ-ス、弁護士、精神科医など)を作っておき、周知しておくことが必要と思う。
医療事故を起こした看護師の精神的サポ-ト C.カ-クパトリック によると
医療事故が発生した直後は急激な不安に襲われる。このような時、サポ-トを提供できるのは、病院によっても違うが、チャプレン部かソ-シャルサ-ビス部である。
日本においては、チャプレン部があるところは一部のところだけしかないのでやはり、リスクマネジャ-または、精神科医、リエゾンナ-スが現実的だと思います。他にも内容によっては、相談するところは変わってくると思います。
また、内容によっては、倫理委員会、事故防止委員会などもありリスクマネジャ-は、コ-ディネ-トするのが好ましいのではないかと考えます。
看護協会からリエゾンナ-スの紹介がある場合もあるようですので、地域の看護協会に相談するとよいのではないかと思います。
また、サポ-トプログラムがあればよいと思います。プログラムがあることで安心できるのではないでしょうか?
また、病院側の公式な発表として事故の事実を他の職員にも正確に知ってもらうことは、他のスタッフの動揺を沈めると同時に当事者がおかしな想像や、非難を浴びることなく、正しく評価されるのではないでしょうか。
更に、事故後に急にサポ-トをしても難しく、以前から看護者自身を認めてあげていることが必要だと思います。
つまり日頃からの良好な人間関係がサポ-トを受け入れやすくし、効果的なサポ-トが出来やすい。
失敗は役に立つことあなたの失敗は生かせることで、受け入れをしてあげることで表出しやすくなる
上手くサポ-トができれば、当事者が事故防止の伝道者になることができ、事故防止をがさらに進む事も考えられることです。
業務以外のサポ-トは、
・看護者へのメンタルケア
・情報の共有化
の2つをあげることが出来るのではないかと思う。
事故前については"情報の共有化"が主となり、正確な情報、適切な指導や啓蒙活動をすることによって不安が軽減すると思われる。
事故後にはメンタルケアが主となり、必須である。精神的サポ-トによって個人の精神的負担の大きさは異なると思います。
また、事故後の経過などの情報を全体で共有することも大切だと考えます。
病院が事故防止という経済的な損失、信用の失墜、その他の施設に対するもののみを追うのではなく、
個人のサポ-トを明文化したり明確にすることによって、私たちを大切にしてくれている病院である。という意識がなければ、
事故防止の協力はおざなりのものになり、事故防止は進まないものではないかと思います。
結局サポ-トを進めるということは、事故防止活動を円滑に進めるということになると思います。
事故防止だけで進んで行くのではなく、サポ-トを含めて一緒に行うことにより、事故防止のみに走るだけでなく、良い関係で事故防止できることがこれからのあり方だと思います。
● 医療事故を起こした看護師の精神的サポ-ト C.カ-クパトリック
● 管理者の立場から事故後の長期的建て直しを考える 3施設へのインタビュ-を基に 村上美好
● 事故後の精神面のサポ-トを考える リスクマネジャ-の持つリエゾン機能 釜 英介
INR インタ-ナショナル ナ-シング レビュ- 107号 Vol.25 No.4 日本看護協会出版会
特集 リスクマネジメントの新しい展開 事故後のサポ-トの実際
● 4 医療者を支えるサポ-トシステム
医療事故 山内桂子 山内隆久 朝日新聞社 2000 p.193~197
● 「周産期における医療事故被害者の心的外傷と助産婦の責務」
「周産期医療事故」 助産婦雑誌 医学書院 Vol.54 No.3 2000 38(216)~42(220)
医療事故の被害者の心理的変化について詳しく分析されています。
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