ご存じのように、看護行為の多くが倫理的判断のもとで行っています。わかりやすいところでは抑制をする事と抑制しないことのいわゆるジレンマなのですが、この倫理的判断にしても個人の倫理観によって異なる行為をすることがあったりしますし、
また、時代によっては倫理的問題も変化していくものだと思います。最近においてはインフォ-ムドコンセント、QOLなど権利概念も変わりつつありそのあたりからも倫理的概念は変化していくものだと思います。
また倫理上の答えを出していかなければ行けないと思いがちですが、極端な場合を除きなかなか答えは出しにくいもののようです。そのためにもいろいろな事例を集めて検討していくことが必要なのだと思います。
行動の条理として倫理的な問題は、それぞれの判断に対して、たくさんの様々な事例を検討して倫理的感性を磨いていく事が望ましく、倫理的に全てのことが正しいということは難しいと思います。
しかし、通常の倫理的な問題と異なり看護側のミスなどよる看護事故が生じた場合などは、明白な倫理問題となるのではないかと思います。倫理観の低さが事故を招き、事故が生じてからの倫理的な対応も必要であり、また倫理観が低いと危険が予測ではないこともあると思います。ここでは、看護事故に関係する倫理について述べてみます。
辞書などによりますと
倫理 ethics |
人のふみ行うべき道。人間関係や秩序を保持する道徳。
人間らしく生きて行くのに望ましい筋道。 |
道徳 |
それを行うことで利益をもたらし、人間として行わなければいけない筋道 |
モラル |
道徳。倫理。行為の正邪とその区別に関する態度、または教え。 |
倫理、道徳は、同じような意味ですが、区別するとすれば
倫理は理論を 道徳は実践を 重視するもののようです。
ケアを受ける側の原則として次のようなことがあげられます。
1.自律 |
自分の行動を決める自由 |
2.善行、無害 |
善い行いをされること、悪いことはされないこと |
3.公平、平等 |
平等に対応されること |
4.忠誠、誠実、正直 |
うそをつかれないこと、約束を守られること |
3. 看護者の倫理綱領(日本看護協会
2003年) |
1. 看護者は、人間の生命、人間としての尊厳及び権利を尊重する。
2. 看護者は、国籍、人種・民族、宗教、信条、年齢、性別及び性的指向、社会的地位、経済的状態、ライフスタイル、 健康問題の性質にかかわらず、対象となる人々に平等に看護を提供する。
3. 看護者は、対象となる人々との間に信頼関係を築き、その信頼関係に基づいて看護を提供する。
4. 看護者は、人々の知る権利及び自己決定の権利を尊重し、その権利を擁護する。
5. 看護者は、守秘義務を遵守し、個人情報の保護に努めるとともに、これを他者と共有する場合は適切な判断のもとに行う。
6. 看護者は、対象となる人々への看護が阻害されているときや危険にさらされているときは、人々を保護し安全を確保する。
7. 看護者は、自己の責任と能力を的確に認識し、実施した看護について個人としての責任をもつ。
8. 看護者は、常に、個人の責任として継続学習による能力の維持・開発に努める。
9. 看護者は、他の看護者及び保健医療福祉関係者とともに協働して看護を提供する。
10. 看護者は、より質の高い看護を行うために、看護実践、看護管理、看護教育、看護研究の 望ましい基準を設定し、実施する。
11. 看護者は、研究や実践を通して、専門的知識・技術の創造と開発に努め、看護学の発展に寄与する。
12. 看護者は、より質の高い看護を行うために、看護者自身の心身の健康の保持増進に努める。
13. 看護者は、社会の人々の信頼を得るように、個人としての品行を常に高く維持する。
14. 看護者は、人々がよりよい健康を獲得していくために、環境の問題について社会と責任を共有する。
15. 看護者は、専門職組織を通じて、看護の質を高めるための制度の確立に参画し、よりよい社会づくりに貢献する。
詳しい説明は 日本看護協会 看護者の倫理綱領
注:以前のものは「看護婦の倫理規定」(日本看護協会1988年)でしたが、タイトルだけでも看護婦から看護者、規定から綱領、に変更になっています。
4.倫理状況の判断のプロセスと看護実践上の倫理的概念 |
倫理状況の判断プロセス(看護の倫理的意志決定モデル) |
1. |
価値状況の背景にある事情の情報収集 |
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(1) |
何が起こっているのか(価値の対立の背景にある事情は何か) |
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(2) |
誰がこの状況に関わっているのか |
2. |
価値の重要性の判断 |
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(1) |
関わっている人の価値観、考え方、立場の違い |
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(2) |
関わっている人の考え方の背景にある事情 |
3. |
方法の決定 |
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(1) |
考えられる選択肢(意図とその結果) |
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(2) |
選択肢についての相互理解と選択の合意 |
4. |
実行(行動)する |
5. |
評価(全ての過程を振り返り)する |
看護実践上の倫理的概念(看護師の倫理的意志決定の基盤となるもの) |
1. |
アドボカシ- |
重要なことを積極的に支援・サポ-トすること
自分自身で表現できない人の代わりに基本的人権を守ることをいう |
2. |
責務 |
どのように責任を遂行するかということ
健康の増進・疾病の予防・健康の回復・苦痛の緩和 |
3. |
協力 |
患者に質の高いケアを提供するために他の人と積極的に物事を取り組む
看護ケアのやり方を設定する際に協働することである。 |
4. |
ケアリング |
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引用: 高知医科大学看護学科教授 尾原 喜美子 講義より一部改変あり
事故に関連した倫理規定に反すると思われるところを大まかに述べると、
生命の尊重、尊厳、権利の尊重を阻害することがあった場合に保護しないこと。
さらに隠蔽などによって権利、人格を踏みにじること。患者の危険を知りながら対処しない。
危険が予測できず可能な高度の看護を提供できない。
また自己の実施した看護については個人としての責任をもてない。
事故防止の継続的教育が無く、事故防止のための勉強をしないと言うことなども倫理規定に反することとなる。
患者がケアを受けると言うことは、病院と患者との契約であり、患者の権利として医療を受ける権利もしくは拒否する権利を持っているが、事故が生じた場合においては、まず最初に患者の意志にあるものではないということ。つまり自律がないと言うことであり倫理上の問題となります。
事故後の情報が与えられる機会がなく、その後も自律がない場合もあります。以前タ-ミナルなどでは「うそも方便」が認められていた時期もありますが。事故に関しては、そのようなことは認められず情報を得る権利を持つため隠蔽することは倫理的に問題となります。
事故を起こすことによっての隠蔽、嘘、適切な対処を怠る事も倫理上の大きな問題でありますが、これらの事故が生じてからだけでなく日頃からの研鑽を怠り事故防止に消極的なことも倫理上の問題となりうると思います。倫理観の乏しいところでは患者に直接影響がなくても業務をこなすのみとなりがちで発展性はなく、それにより事故につながっていく可能性があると思います。
また、法と倫理の関係がありますが、合法であるので何をしてもいいというわけではないでしょう。専門職としての倫理を持たなければいけないと思います。
1.事故防止のための倫理問題
(1)看護介入における倫理的な側面および質的な問題
1.看護行為自体に問題がある。根拠がない看護介入を行う場合
2.マニュアル以外の想定外のことをするとき
3.おかしいと思っても確認しない事
4.事故防止を怠る、改善などをしない状態
(2)インシデントレポ-トの提出 (報告をしない。 事実を隠蔽する。)
(3)組織としての倫理
1.組織、同僚、医師など他の職種との連携不足によるもの
2.組織として倫理観に乏しい
3.倫理的に問題な場合の看護師の対応
4.医師の指示が間違っているのではいるのではないかと思ったとき
2.事故が生じてからの倫理問題
(1)事故対応に関するもの (人権などに配慮した対応が出来ているか?)
(2)事故報告書の提出 (報告をしない。 事実を隠蔽する。)
(3)組織としての倫理
1.事故が生じたときに、患者本人、家族に事実を伝えることが出来るか?
2.事故及びインシデントを報告しない、出来ない。
3.他の看護師および医師などの医療スタッフのミスを見たときに指摘できない。
4.謝罪できるか
3.その他の倫理問題
(1)組織による倫理的問題
情報公開できずに また、オ-プンにできない体質 事故報告書の管理デ-タ-を公開する際のプライバシ-の問題など
(2)作為的な犯罪としての行為 倫理の原則からは当然異なりますが、みられることです。
謝罪しないこと、職員に隠蔽を指示すること。
(3)その他
事故関係を勉強していきますとやはり倫理的なところが問題となってきます。
実際に通常の業務の中で倫理的判断を求められる場面は多く、倫理は患者をケアする上での基本的なところだと思いますが、
患者の自律よりも医療のモデルの方が優先されることも多いようです。
現場においては、倫理的問題を改めて考え議論する機会は、少ないように思います。
遺伝子などによる生命倫理についての委員会などを持っているところがありますが、
看護の根本の一つとして倫理ということをもう少し身近に考えていかなければいけないのではないかと思います。
数回の講演と数冊の本を読んだ程度の未熟な内容ですので、ご指摘、指導いただければありがたいです。
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